DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業が競争力を強化し、持続可能な成長を実現するために今や欠かせない取り組みとなっています。しかし、その実現には数多くの課題が伴います。テクノロジーの導入だけではなく、業務プロセスやビジネスモデルの変革、さらには組織文化や従業員の意識改革なども必要です。とくに日本企業においては、IT人材の不足や予算の不足、社内体制の未整備など、さまざまな課題がDXの障壁として挙げられます。また、DXのプロジェクトを進める際には、今後の事業展開に紐づく中長期的なロードマップを描くことの難しさに、頭を悩ませる経営者・担当者の方が多いのも実情です。
本記事では、このようなDXを推進するにあたっての課題について解説します。また、DXのプロジェクトで陥りがちなポイントや推進時の注意点についても解説しますので、経営者やご担当者の方はぜひ参考にしてください。
DXの現状
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、企業が成長を遂げるためには欠かせない取り組みのひとつです。業務プロセスやビジネスモデルの変革を目指すDXは、製造業・小売業・金融業、さらには公共部門に至るまで幅広い分野で進展しています。
一方で、DXの取り組みを通じて成果を上げている企業は限られており、日本国内としての進捗状況は決して満足のいくものではありません。実際にPwCの調査(2024年)によれば、DXに関して「十分な成果が出ている」と回答した企業は約10%に過ぎません。2023年以前から大きな変化がないことから、日本企業におけるDXの取り組みは決して順調とは言い難い状況なのが実情です。
多くの企業では、技術的な部分だけではなく、組織文化の変革や人材育成の難しさなどの課題に直面しています。同調査によれば「人材育成・カルチャー変革」に課題を感じている企業が15.8%と最も多く、次いで「データドリブン経営」が15.5%、「DX原資の確保」が14%という結果となりました。全体的にリソース不足に課題を感じる企業が多く、とくにリソースの限られる中小企業では、これらの課題にどのように対処するかが大きなテーマとなっています。
各社が抱えているDXの課題
各社がDXを進めるうえで抱えている、下記の課題について詳しく解説します。
- 人材が不足している
- 事業展開が進まない
- ロードマップが描けていない
- 社内体制が確立されていない
- 予算が不足している
人材が不足している
DXを成功させるうえで、デジタル技術を理解し、それを活用できる人材の確保は非常に重要です。しかし、日本国内ではデータサイエンティストやエンジニアといった専門人材が圧倒的に不足しています。実際に経済産業省の報告によれば、2030年には最大79万人のIT人材が不足するといわれています。
その結果、既存の社員にスキルアップを促すケースが増えていますが、教育コストや勤務時間などが制約となり、育成まで手が回らない企業が多いのが実情です。また、採用活動においても優秀な人材を確保する競争が激化しており、とくに地方企業は大都市圏の企業に比べて不利な状況にあるでしょう。
全社員がデジタルリテラシーを身につけるには、一定の時間をかける必要があります。また、DXのトレンドは常に変化し続けるため、新しい技術やビジネスモデルに対応できる柔軟な人材が求められます。社内外の研修プログラムの充実に留まらず、外部人材の活用なども視野にいれるのがおすすめです。
事業展開が進まない
DXの取り組み自体が事業の成長に結びつかないケースは少なくありません。新しい技術を導入したものの、収益向上や業務効率化につながらない場合は、プロジェクトが途中で中断されることもあります。とくに現場との連携が不十分な場合や、技術の選定ミスなどが原因で成果が出ないケースが多いです。DXの取り組みはあくまで手段に過ぎないため、常に目的と照らし合わせて進めることが重要です。また、プロジェクトの初期段階から現場にも共有を行い、事業展開につながる確率を少しでも高めていく必要があります。
ロードマップが描けていない
DXは長期的な視点で進める必要があります。しかし、実際には具体的なロードマップまで描き切れていない企業が多いです。短期的な利益を優先した結果、戦略的な計画が不足してしまえば、DXの進行は中途半端な結果になってしまいます。また、全社的なビジョンが共有されていないと、各部門の取り組みがバラバラになり、全体最適が図れないという問題も発生します。そのため、DXに取り組む際には「何を目的にして・どれくらいの時間軸で・何をベースに評価を行うのか」を明確にすることが重要です。
社内体制が確立されていない
多くの企業では、既存の縦割り構造が課題となり、スムーズな情報共有や連携が難しい状況にあります。各々が自分のチームの利益や効率を優先するあまり、プロジェクトが円滑に進まないだけでなく、全社最適なDXにならない懸念があります。また「今までのやり方を変えたくない」「デジタル技術に苦手意識がある」といった考えを持つ人物が多い組織では、合意形成が得られず、プロジェクトが途中で頓挫する可能性もあります。
一方で、PwCの調査によれば、DXで「十分な成果が出ている」と回答した企業のうち、74%の企業が「全社にまたがって取り組んでいる」というデータがあります。これは「あまり成果が出ていない/全く成果が出ていない」と回答した企業の約1.6倍の水準となり、DXの取り組みは一部の部署だけに閉じず、全社横断的に取り組むことが重要だとわかります。
つまり、DXを成功させるためには、DXに適した社内体制を整備し、全社横断的に取り組むことが重要なのです。そのためには、部門横断的なDXチームの構築や意思決定プロセスの整備などが求められます。
予算が不足している
DXの推進には、技術導入・人材育成・コンサルティングなど、さまざまな費用が発生します。しかし、とくに中小企業ではDXに割ける予算が限られており、大規模な取り組みが難しいケースが多いです。また、費用対効果を明確に示すことができない場合、経営層からの理解と支援を得られないケースもあります。そのため、優先度の高い施策からスモールスタートで始めたり、補助金や助成金を活用したりなどの工夫が求められます。
とくに経済産業省の「IT導入補助金」は、DXに関するITツールの導入を支援する補助金です。事務局の審査をクリアすることで、最大1/2の補助率(450万円上限)で支援を受けることができます。予算が不足している場合には、このような支援メニューの活用も視野に入れたうえでプロジェクトを進めていきましょう。
DXで陥りがちな失敗
DXの取り組みを進めるうえで陥りがちな、下記の失敗について解説します。
- 手段が目的化してしまう
- システムを導入して満足してしまう
- 現場に合わない施策を行なってしまう
手段が目的化してしまう
DXを進める過程で、最新の技術を導入すること自体が目的になってしまうケースも少なくないでしょう。しかし、AIやIoTといった技術を導入しても、それ自体が実際の業務改善や価値創出につながるわけではありません。目的を明確にし、その手段として技術を活用するといった視点が重要です。よくあるパターンとしては、経営層は目的を持って号令したものの、現場が「早く何か形にしなければならない」といった気持ちでプロジェクトを進めてしまうケースがあります。担当者が無意識に進めてしまう場合もあるため、プロジェクトを進めるなかで「手段が目的化していないか?」は逐一確認するのがおすすめです。
システムを導入して満足してしまう
新しいシステムを導入した時点でDXが達成されたと考え、その後の運用や改善を怠るケースも見受けられます。DXは何かひとつを行って完了するものではありません。リリース後にも継続的な改善を行うことが求められます。導入後のモニタリングや現場からのフィードバックを通じて、マニュアルの見直しや実装した機能の改修などを行いましょう。
また、仮にシステムの導入がひとつ成功した場合には、当初の目的に立ち返り、他にも何か施策(プロジェクト)を立案できないか模索します。競合他社も同様のデジタル技術を導入し、足並みが揃ってしまえば、市場で優位性を築くことはできなくなります。常に市場を先行できるようなスピードで施策を立案、実行していくことが重要です。
現場に合わない施策を行なってしまう
現場の業務フローや課題を無視してトップダウンで施策を進めた結果、かえって現場が混乱し、反発を招くこともあります。DXを成功させるには、現場の声を十分に聞き入れて、実際の業務に適した形で進めることが重要です。とくに業務効率化を目的に進める場合には、現場の従業員が「何に困っているのか」を正確に把握する必要があります。的はずれな施策を進めてしまうと、当初の目的を達成できず、投下した金銭的・時間的コストを失ってしまう恐れがあるため注意が必要です。現場のメンバーをプロジェクトにアサインするなど、仕組みで対策を行うのがよいでしょう。
DXを推進する際の注意点
DXを推進する際には、下記のポイントに気をつける必要があります。
- 中長期的な計画を描く
- 経営層がプロジェクトに参加する
- 関係各所を巻き込みながら進める
- 施策の優先順位を決めておく
- 社内の教育体制を見直す
中長期的な計画を描く
DXは短期的な成果を求めるものではなく、長期的な視点で進める必要があります。とくにプロジェクトの初期段階では即効性のある施策に注目が集まりがちですが、持続的な成果を生むためには、中長期的な視点をもつことが重要です。そのためには事業全体のビジョンを明確にし、それを実現するための段階的な計画(ロードマップ)を立てることが求められます。目標設定を具体化し、進捗を評価できる仕組みを整えることで、計画が形骸化するのを防ぐことができます。一部の大手企業では、DXの中期戦略を公開していますので、戦略策定を行ううえでぜひ参考にしてみてください。
参考:デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組み | 経営方針・体制 | 株主・投資家向け情報 | 株式会社LIXIL
経営層がプロジェクトに参加する
DXを成功させるには、経営層がプロジェクトに積極的に関与し、リーダーシップを発揮することが重要です。経営層が自らの言葉でDXの重要性を伝え、全社的な協力を促すことで、プロジェクトの成功率は大きく向上します。
多くの場合、現場のメンバーは目先のタスクをこなすのに精一杯なケースが多いでしょう。一方で、DXの取り組みは中長期的に行うものなので、現場では優先順位が混乱してしまい、プロジェクトが遅れてしまうことも少なくありません。経営層が声高にDXの重要性を叫ぶことで、現場では「優先度が高いものである」という共通認識が生まれるため、必然とプロジェクトが円滑に進められる可能性が高まるのです。
関係各所を巻き込みながら進める
DXは一部門だけで進めるものではなく、全社的な取り組みが必要になるものです。そのため、部門間の連携を強化し、ステークホルダー全体を巻き込むことが重要になります。また、外部パートナーとの協力も視野に入れたうえで、柔軟に取り組むことが求められます。
このような業務的な特性から、さまざまな関係者と円滑なコミュニケーションが取れる人材がDXプロジェクトのマネージャー及びディレクターとして向いている傾向にあります。とくに開発チームとコミュニケーションを行う機会も多いため、技術経験のあるメンバーをアサインするのがおすすめです。
施策の優先順位を決めておく
DXの取り組みは無数にあり、すべてを一度に行うことは現実的ではありません。まずは「緊急度」と「重要度」の2軸から優先順位の見立てをつけて、必要な人的・金銭的リソースを考慮したうえで、実行するべき施策を検討します。また、施策の優先順位が決まったら、先述したロードマップに落とし込みます。
「いつまでに・何を実行するのか」が明確になることで、関係者が迷うことなく目の前のプロジェクト(タスク)に集中できるようになるでしょう。プロジェクトの初期段階で優先順位を明確につけないと、途中で「こちらのほうが先に取り組むべきではないか?」など、プロジェクトが振り出しに戻ってしまう恐れがあるため注意が必要です。
社内の教育体制を見直す
DXを推進するには、社員一人ひとりがデジタル技術に対する理解を深め、環境変化に対応できるようなITスキルを取得することが重要になります。データ分析やクラウドツールの活用、AI・IoT・RPAといった最新技術に対する基礎知識など、幅広い知見が求められます。また、このようなIT知識だけでなく、プロジェクトマネジメントやリーダーシップといった組織全体を巻き込むスキルの向上も欠かせません。社内での研修プログラムの充実やOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の体制強化など、社員が成長できる環境を整えることで、DXの取り組みを活性化させることができます。
まとめ
DXは単なるシステムの導入ではなく、組織全体の変革を伴う大きな取り組みです。その成功には、適切な人材の確保や中長期的な計画、社内外の連携が欠かせません。また、手段が目的化しないように注意し、現場の実情に合った形で進めることが重要です。企業ごとに課題や状況は異なりますが、共通して言えるのはDXを経営戦略の中心に据えて、全社一丸となって取り組む姿勢が求められるということです。この視点を忘れずに進めることで、DXの成功につながるでしょう。
また、DXのプロジェクトを進めていくうえでは、IT技術に関する深い知見が求められます。社内教育を通じてIT人材を育成することも可能ですが、効果が出るまでには一定の時間がかかることが予想されます。DXへの着手が遅れることで競合他社に先を越されてしまう可能性もあるため、社内で対応できる人材がいない場合には、まずは専門の支援会社に依頼をすることも視野に入れておきましょう。
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