企業を取り巻く環境が目まぐるしく変化するなかで、近年ではDX(デジタルトランスフォーメーション)の取り組みに注力する企業が増えてきました。デジタル技術を活用し、顧客体験の向上・業務効率化・新たなビジネスモデルの創出などを目指し、各社ではさまざまな施策を検討、実施しています。
本記事では、各業界で行われているDXの取り組みについて紹介します。また、DXのプロジェクトを進めるうえでの注意点についても解説しますので、経営者やご担当者の方はぜひ参考にしてください。
DXとは
DX(デジタルトランスフォーメーション)は、デジタル技術を活用して、既存のビジネスモデルや業務プロセスを変革し、新たな価値を創出する取り組みです。具体的には、従来のアナログな手法で行われていた業務をデジタル化することや、それらを基盤にビジネス全体を見直すことなどが挙げられます。
DXの目的は単なる業務効率化に留まるものではありません。企業が時代の変化に対応し、新たな競争力を獲得することが主な目的となります。たとえば近年では、AI・IoT・クラウドコンピューティングといった最新技術の進化によって、データの収集や分析が容易になり、それを基にした迅速な意思決定が可能となりました。これによって、顧客体験の向上や新しいサービスの創出などにつながっています。
ここ数年では、経済産業省がDXを推進するための指針を打ち出したことや、多くの企業がDX銘柄として評価されるようになったことなども背景にあり、日本国内でもさらなる関心が高まっています。しかし、DXの進捗状況は企業規模や業界ごとに異なり、多くの企業では下記のような課題に直面しているのが実情です。
- 人材が不足している
- 事業展開が進まない
- ロードマップが描けていない
- 社内体制が確立されていない
- 予算が不足している
実際にPwCの調査(2024年)によれば、DXに関して「十分な成果が出ている」と回答した企業は約10%に過ぎません。しかし一方で、このような課題に直面しながらも、社内外のステークホルダーを巻き込みながら着実に成長を遂げている企業もあります。
業界別DX事例【製造業界】
DXに取り組んだ企業事例として、まずは製造業界の事例を紹介します。
株式会社クボタ
株式会社クボタは、農業機械や建設機械を手掛ける企業としてDXを積極的に推進しています。従来まで事業本部ごとに独立していたIT部門を統合し、新たにG-ICT本部を設置。ビッグデータやAIなどの最新技術を積極的に活用し、DXの基盤を構築しています。
とくに近年では、マイクロソフトとの戦略的アライアンスを締結。クラウドサービス「Microsoft Azure」への全面移行により、クラウド技術やAIを活用したスピード感のある意思決定とアクションを目指しています。また、これらの取り組みを通じて、農業生産の効率化や持続可能な社会の実現に向けて取り組まれているようです。
参照:マイクロソフトとの戦略的提携でクボタのDXが本格的に加速する! | クボタプレス | 株式会社クボタ
ユニ・チャーム株式会社
ユニ・チャーム株式会社は、経済産業省が定める「DX認定事業者」に認定されています。DXの主な目的を「顧客インサイトの発見」と位置づけており、新商品の開発や改良点の創造、新規のカテゴリー開発などにつなげられています。
同社では「デジタルスクラムシステム」を開発し、離れた場所からでもペットの健康状態を観察できるサービスを提供しています。また、紙おむつのサブスクリプションモデル「手ぶら登園」は、子育て世代の負担を軽減し、顧客との長期的な関係構築にも貢献しています。
参照:ユニ・チャーム、経済産業省が定める「DX認定事業者」に選定-ユニ・チャーム
業界別DX事例【金融業界】
DXに取り組んだ企業事例として、次に金融業界の事例を紹介します。
りそなホールディングス
りそなホールディングスは、2020年の「DX銘柄」に銀行業界で唯一選ばれた企業です。同社が2018年にリリースした「りそなグループアプリ」は、2020年にはATMの利用者数を上回り、2022年にはリリースからわずか4年で480万ダウンロードを記録するまでに成長しました。このアプリでは、残高照会・振込・投資信託の購入など、幅広いサービスを提供しており、顧客体験の向上に寄与しています。
成功要因として、同社執行役の伊佐氏は「Nothing is Perfect」という考え方を挙げています。従来までは「完璧なものを提供する」ことを目標に取り組んでいましたが、完璧なものはないという前提でアプリを開発し、すべての面で改善と改革を続けて「PDCAを回すことにこだわった」と言います。
参照:りそなグループが描く金融の将来像とは | 日本経済新聞 電子版特集
株式会社鹿児島銀行
鹿児島銀行は、独自のキャッシュレス決済アプリ「Payどん」をリリースしました。このアプリは、地域の商流をデジタル化する重要な役割を担っています。県内の金融機関(鹿児島銀行・南日本銀行・鹿児島相互信用金庫・鹿児島信用金庫)から口座支払いができるほか、アプリにチャージしたお金で支払いを行う電子マネー払いも選択できます。地域の企業や顧客との連携を強化することで、地方銀行ならではの価値を提供し、地域経済の活性化に貢献しています。
業界別DX事例【不動産業界】
DXに取り組んだ企業事例として、次に不動産業界の事例を紹介します。
株式会社オープンハウス
株式会社オープンハウスは、自社開発のAI技術を活用して広告チラシの作成業務を大幅に効率化しました。過去のチラシ数万件をAIに学習させることで、物件1つにつき最大10種類のレイアウトのチラシを作成できるようです。同社では、この取り組みによって年間で約1万時間の業務削減を実現しています。また、従来までは作成したチラシのクオリティに差が生まれていたのが、AIを導入したことで、一定レベルまで標準化できるようになったようです。
参照:「年1万時間の業務削減」自社AIで成し遂げたオープンハウス カギは住宅チラシの自動作成 キーパーソンに聞く舞台裏(1/2 ページ) - ITmedia NEWS
株式会社ウィル
株式会社ウィルは、物件紹介サービス「AIウィルくん」を開発しました。このAIは、膨大な物件データや成約データを活用して、顧客に最適な物件を提案します。従来までのサービスでは、物件の所在地・広さ・間取り・金額などの一律化された条件をもとに物件を探すものが一般的でしたが、同社のサービスでは趣味嗜好などの顧客情報をもとに物件を探すことができます。すでに1,000人以上の利用実績があり、不動産業界におけるDXの事例として注目を集めています。
参照:[お知らせ]新サービス開始!「思いがけない物件との出会い」を独自のAIが提案いたします。|企業情報 - 株式会社ウィル
業界別DX事例【建設業界】
DXに取り組んだ企業事例として、次に建設業界の事例を紹介します。
大成建設株式会社
大成建設株式会社は、建設現場の生産性向上を目的としたDXに注力しています。AIを活用した設計支援システム「AI設計部長」の機能拡張を通じて、顧客の希望条件に合致した最適な設計案を短時間で提供できるツールを開発しました。さらに本ツールでは、BIMデータとしての出力も可能なため、詳細設計への移行をスムーズに行い、設計業務の効率化を実現できています。
参照:「AI設計部長®」の新たな設計ツールを開発 | 大成建設株式会社
清水建設株式会社
清水建設株式会社は、ブルーイノベーション株式会社の提供する屋内点検用球体ドローン「ELIOS 3」を導入しました。この取り組みにより、工事終了前の検査作業において、危険を伴うエリア(酸素欠乏症のリスクがある地下ピット内や足場が必要な高所など)で、ドローンを用いた点検が可能になりました。人間が行うのが危険な作業を安全、且つ迅速に行えるため、建設現場の生産性向上に大きな役目を果たすことが期待されています。
参照:清水建設、屋内点検用球体ドローン「ELIOS 3」を導入 | ブルーイノベーション株式会社のプレスリリース
業界別DX事例【小売業界】
DXに取り組んだ企業事例として、次に小売業界の事例を紹介します。
株式会社ワークマン
株式会社ワークマンは、株式会社日立製作所と協創の結果、約10万品目の発注業務を自動化する新システムを導入しました。この取り組みによって、平均在庫量を維持しながら、商品の売れ行きに応じてタイムリーな欠品補充を実現することができています。実際に、各店舗における発注業務の時間は、約30分/日から約2分/日に短縮することができたようです。
参照:ワークマン/「AI需要予測型自動発注」全店導入へ、発注業務を2分に短縮 | 流通ニュース
株式会社トライアルカンパニー
株式会社トライアルカンパニーは、AIカメラを活用した完全無人の店舗運営を実現しました。国内初となる、AIを活用した「24時間顔認証決済」を導入。18歳以上であれば登録後は誰でも利用可能となるようです。この取り組みでは、人件費の削減や顧客の利便性向上だけでなく、POS(販売時点情報管理)データを活用したマーケティング活動が可能となるため、商品陳列の最適化や在庫管理の効率化も期待されています。
業界別DX事例【医療業界】
DXに取り組んだ企業事例として、次に医療業界の事例を紹介します。
すみかわ皮膚科アレルギークリニック
すみかわ皮膚科アレルギークリニックは、オンライン診療システムを導入することで、患者とのコミュニケーションを効率化しています。同院では北海道の札幌市という立地がら、従来までは「片道2時間かけて通院する」という患者もいたようです。また、子育てや仕事が理由で通院できない方や、新型コロナウイルスの流行で「外出を避けたい」といった需要もあったようです。このような遠方の患者をカバーするためにオンライン診療を導入。所要時間も対面診療とほぼ変わらず、現場に負担をかけることなく導入に成功したようです。
参照:働き世代の治療を継続 遠方患者の薬切れを回避する オンライン診療の活用|シェアNo.1 CLINICSオンライン診療システム
たかの内科クリニック
たかの内科クリニックでは、デジタル治療プログラムを採用し、高血圧の患者には「CureApp HT 高血圧治療補助アプリ」を処方し、禁煙外来では「CureApp SC ニコチン依存症治療アプリ」及び「COチェッカー」を処方しています。クリニックでは指導の時間も限られるため、自宅で指導を受けられるのは医師と患者双方にとってメリットのある取り組みだといえます。とくに生活習慣を変えることは容易ではなく、日頃からの取り組みが重要になるため、アプリの処方は今後の治療のスタンダードになることが強く期待されています。
参照:インタビュー記事:たかの内科クリニック 院長 野村和至先生|CureApp HT高血圧治療補助アプリ製品情報サイト
業界別DX事例【サービス業界】
DXに取り組んだ企業事例として、最後にサービス業界の事例を紹介します。
株式会社FOOD & LIFE COMPANIES
株式会社FOOD & LIFE COMPANIESでは、傘下の回転寿司スシローにて「デジロー(デジタル スシロービジョン)」を導入しました。本システムの導入により、回転寿司ならではのワクワクを残しつつ、注文に関わる人的コストの削減につなげられたようです。実際に、デジローを導入した店舗は客数・客単価ともに向上傾向にあるようで、とくに若年層・ファミリー層から好評を得ています。
参照:スシローが急拡大「デジタル回転レーン」の"凄さ" 消費者にも歓迎されるDX化の好例になっている | 街・住まい | 東洋経済オンライン
ヤマト運輸株式会社
ヤマト運輸株式会社では、ヤマトデジタルプラットフォーム(YDP)を構築し、さまざまなデータをリアルタイムで連携・分析が可能になりました。業務量の予測やオペレーションの効率化に活用するほか、グループ全体の顧客データを統合することで顧客体験の向上も期待されています。また、同社では2022年3月期よりDX人財の育成にも力を入れています。デジタル教育プログラム「Yamato Digital Academy(YDA)」を開始し、1,000名規模の受講を予定しているようです。
参照:「Oneヤマト2023」の改革を支えるデジタル戦略の推進
DXを推進する際の注意点
DXを推進する際には、下記のポイントに注意する必要があります。
- 目的を明確にする
- 経営層が積極的に参加する
- 中長期的な計画を持つ
目的を明確にする
DXを成功させるためには、まずは目的を明確にすることが重要です。目的を明確にしないと、手段の目的化につながる懸念があるほか、施策を正しく評価できず、途中でプロジェクトが頓挫してしまう可能性があります。単なる技術導入に終わらず、解決したい課題を関係者間で共有する必要があります。
経営層が積極的に参加する
DXは組織全体を巻き込む取り組みのため、経営層のリーダーシップが欠かせません。経営層が積極的に関与することで、プロジェクトの進行がスムーズになります。現場のメンバーは目の前のタスクを捌くことに優先度を置きがちなため、経営層がDXプロジェクトの重要度を声高に叫び、優先順位が高いことを周知していく必要があります。
中長期的な計画を持つ
DXプロジェクトは短期間で完結するものではありません。中長期的な計画を持つことで、壮大なプロジェクトを段階的に進めることができます。とくにプロジェクトの初期段階では即効性のある施策に注目が集まりがちですが、持続的な成果を生むためには、中長期的な視点をもって取り組むことが不可欠です。
たとえば、初年度はデータの整備や基盤システムの構築に重点を置き、次年度以降に本格的な業務改革やサービスの拡大を行うなど。また、計画には成果指標(KPI)を組み込み、定期的に進捗を評価することで、プロジェクトの軌道修正が可能となります。
まとめ
DXは、企業が持続可能な成長を遂げるためには欠かせない取り組みです。本記事では、製造業・金融業・不動産業・建設業・小売業・医療業・サービス業といった多岐にわたる業界での具体的なDX事例を紹介しました。それぞれの事例は、DXが単なる技術導入に留まらず、業界全体の構造改革や顧客体験の向上につながる可能性を示しています。
一方で、DXを成功させるためには、明確な目的設定や経営層の関与、中長期的な計画の策定が必要です。また、各部署や現場を巻き込みながら進めることで、その効果はさらに高まることが期待できます。しかし、日本企業の多くがDXの必要性を認識しながらも、何らかの課題に直面しているのが現状です。とくにIT人材の不足は社会的な問題として挙げられており、多くの企業でもDXを進めるうえでの課題として認識されているでしょう。
社内教育を通じてIT人材を育成することも可能ですが、それでは時間がかかり、競合他社に先を越されてしまう可能性も否定できません。育成は中長期的な取り組みとして掲げつつ、まずはDXプロジェクトの推進を優先するために外部の支援会社に依頼をするのがおすすめです。
株式会社オルツでは、パーソナル人工知能を中心としたAI活用やDX推進を支援しています。課題のヒアリングからコンサルティング、実証実験まで一気通貫で行うほか、実際の開発や運用などの技術的な支援も可能です。少しでもご興味のある方は、下記のお問い合わせフォームからお気軽にご連絡ください。