急激な生成AIの進化により、ビジネスの現場に与える影響はますます大きくなっています。さまざまな分野で活用が進んでいる一方で、「自社ではどのような業務に活用できるのだろうか」と導入に踏み切れていない企業もあることでしょう。
本記事では、生成AIの概要を押さえたうえで、ビジネスにおける生成AIの活用例をご紹介します。導入時に気を付けるべきポイントについても詳しく解説していますので、ぜひ御覧ください。
生成AIとは
生成AIとは人工知能の一分野で、学習データをもとに新たなコンテンツやアイデアを生成する技術を指します。ここからは、生成AIについてさらに深堀りします。
生成AIと従来のAIの違い
生成AIと従来のAIの主な違いは、創造性に焦点を当てているかどうかです。
従来のAIは、過去のデータをもとに結果を予測したり、分類したりするタスクに強みがあります。たとえば、顧客の購買履歴から次に購入しそうな商品を予測すること、不正取引を検出することなどです。
一方で生成AIは、学習データを基にしながらも新しいコンテンツを生み出します。たとえば、文章を作成する、画像や動画を作り出すといったことが可能です。この「何かを創り出す」という能力が、従来のAIとは違う生成AIの特徴と言えます。
生成AIを活用するメリット
生成AIを活用するメリットには、次の2つが挙げられます。
- 業務を効率化できる
従業員が多くの時間を割いていたタスクをAIが代替することで、生産性を向上できます。具体例としては、文章の生成や資料作成などのクリエイティブな業務、チャットボットなどの自動応答などが挙げられます。
- 人手不足の解消につながる
少ないリソースで多くの業務をこなさなければならない中小企業やスタートアップにとって、生成AIは貴重なツールとなります。また、働き方改革やリモートワークの推進とも相性が良く、多様な働き方を支援する一助にもなります。
生成AIの主な種類4つ
生成AIは、用途や生成するコンテンツの種類に応じてさまざまな分野で活用されています。ここでは、代表的な4つの種類について解説します。
- テキスト生成AI
- 画像生成AI
- 動画生成AI
- 音声生成AI
テキスト生成AI
テキスト生成AIは、自然言語処理技術を活用して文章を生成するAIツールです。ユーザーが入力した指示や質問に応じて、意味のあるテキストを生成できます。文章の作成、要約、翻訳、データ分析のレポート生成など、多岐にわたるタスクに対応可能です。
代表的なテキスト生成AIには、ChatGPTやClaude、Geminiなどが挙げられます。
画像生成AI
画像生成AIは、与えられた指示や参考となるデータをもとに新しい画像を生成する技術です。
デザインや広告、ゲーム、映画制作などのクリエイティブな分野で広く利用されており、アイデアのスケッチや試作品の作成をスピーディに行うことが可能です。また、ECサイトやプロダクト開発における商品イメージの作成にも役立ちます。
代表的な画像生成AIには、Stable Diffusion、Midjourney、DALL-E 3などが挙げられます。
動画生成AI
動画生成AIは、静止画やテキストの情報をもとに動画を生成する技術です。プロモーション動画、ソーシャルメディア向けの短編動画、教育用コンテンツの作成など、幅広い用途で活躍します。
映像の作成や編集を自動化することで、動画制作のコストと時間を削減できる点がメリットです。
代表的な動画生成AIには、Runway Gen-2、Pictory、InVideoなどが挙げられます。
音声生成AI
音声生成AIは、テキストや音声入力を基に、自然な発音や抑揚を持つ音声を生成する技術です。音声の多言語対応や感情表現の調整が可能なものも多く、顧客対応やエンターテイメント分野でも需要が高まっています。
また、音声生成AIはアクセシビリティの向上にも貢献しており、視覚障害者向けの音声案内などでも役立っています。
代表的な音声生成AIには、Voice Engine、ElevenLabs、Murf.aiなどが挙げられます。
生成AIのビジネス活用例11選
生成AIは、さまざまな業界や業務プロセスに応用できる汎用性の高い技術です。ここでは、生成AIのビジネス活用例をご紹介します。
1:文章生成・要約・翻訳
生成AIは、文章をゼロから作成するだけでなく、既存の文章を簡潔にまとめたり、他言語に翻訳したりすることも得意です。ニュース記事の要約、ビジネス文書の短縮、海外市場向けの翻訳作業を効率化できます。
2:メールや企画書などの文書作成
AIは、ビジネスメールや企画書、提案書などの文書作成をサポートします。たとえば、商談フォローのメールやプロジェクト概要のテンプレートを短時間で作成できます。フォーマルな文章からカジュアルなものまで、用途に応じたトーンで文章を自動生成できる点も魅力です。
3:音声データの処理・編集
音声生成AIを活用すれば、ナレーション作成や音声データの文字起こし、音声の編集がスムーズに行えます。特に、複数言語での音声合成や感情表現を含むナレーション生成は、マーケティングやエンターテイメント業界で重宝されています。
4:市場分析
生成AIは、膨大な市場データを効率よく分析し、レポートや洞察を生成します。トレンドの予測や新商品投入のタイミングの分析、競合他社の動向把握などが可能です。
5:新たなアイデアの創出
生成AIは、既存の市場データや消費者のフィードバックを基に、新しい製品やサービスのアイデアを提案します。企業は限られた時間の中でも多くのアイデアを出すことが可能です。特に、ブレインストーミングや企画段階でのサポートに役立ちます。
6:オリジナルの画像や動画作成
生成AIを利用すれば、Webデザインや広告用の素材を迅速に作成できます。また、動画生成AIを活用してプロモーション用の動画や教育コンテンツを制作することで、コストを削減しながらある程度の品質を担保した作品が作れます。
7:カスタマーサポートの自動化
カスタマーサポートでは、チャットボットをはじめとするAIツールが普及しています。生成AIは単なるFAQ対応に留まらず、顧客の質問に対して自然な言葉で柔軟に応答可能です。顧客満足度を向上させると同時に、サポート担当者の負担を軽減する効果があります。
8:プログラムコードの生成
生成AIは、プログラミングのスキルが高くないユーザーでもコードを書けるようサポートします。たとえば、簡単なスクリプトの生成やエラー修正、アルゴリズムの提案が可能です。
9:会議の議事録作成
生成AIは会議中の音声をリアルタイムで文字起こしし、要点を自動的に整理します。リモートワークが増える中で、オンライン会議の議事録作成にも適しています。
10:社内業務のサポート
社内での事務作業や運営においても生成AIは役立ちます。たとえば、経費精算のチェックやデータ入力の自動化、社内ポータル用のコンテンツ生成などが挙げられます。
11:顧客体験の向上
生成AIを使うと、個々の顧客に合わせたパーソナライズされた体験を提供することが可能です。たとえば、顧客の過去の購入履歴や問い合わせ内容をもとに、おすすめ商品やフォローアップメールを自動生成できます。
企業の生成AI活用事例5選
企業でのAI活用事例を5つご紹介します。
- みずほ銀行
- 江崎グリコ
- KDDI
- LINEヤフー
- 大林組
みずほ銀行 :事務手続照会や与信稟議書作成等で活用
みずほ銀行では、2023年6月に社内向けテキストAI「Wiz Chat」を導入しました。活用方法を社内SNSなどで共有し、多くの社員が活用しています。次なる取り組みとして進めているのが、事務手続照会や与信稟議書作成などで活用できる新たな生成AIの開発です。
現在は社内の手続照会窓口に架電して確認・相談している工程を、生成AIと社内情報を連携したチャットボットに置き換えることを目指しています。また、与信稟議書の作成はワンクリックで自動生成できる仕組みを整え、1件あたり平均1〜2時間かかっている業務を約10分に短縮することも目指しています。
参考:〈みずほ〉が見据える、10年後の金融。生成AIを活用して、業務効率化と新たなイノベーションの実現へ。|みずほ銀行
江崎グリコ :問い合わせ業務で活用
江崎グリコでは、生成AIを活用したチャットボット「Alli」を導入しています。元々社内ポータルサイトが複数あったため、情報の検索性に課題を感じていました。その結果、担当者に問い合わせる文化ができてしまい、業務を逼迫していたそうです。
そこでAIチャットボットを導入したところ、従業員が自己解決できるように。年間1.3万件以上もの電話・メールなどでの問い合わせが31%削減され、業務負担が軽減されたとのことです。
参考:■導入事例■【Glicoグループ様】30%の社内問い合わせ対応を削減。顕在化したバックオフィスの課題を「Alli」で解決|Allganize
KDDI :文書作成支援やリサーチ等で活用
KDDIでは、2023年5月より社員1万人を対象に、AIチャットサービス「KDDI AI-Chat」を実業務で利用開始しました。KDDI AI-Chatは、企画業務でのリサーチやアイデア出し、クリエイティブな業務や文書作成のサポートで活用されています。
2021年8月に「KDDIグループAI開発・利活用原則」を策定しており、生成系AIに関しても原則に則ってリスクを評価した上で活用を進めているそうです。
参考:社員1万人が「KDDI AI-Chat」の利用を開始|KDDI
LINE :コーディング作業で活用
LINEヤフーでは、2023年10月より開発業務に関わるすべてのエンジニア約7,000名を対象に、「GitHub Copilot for Business」の導入を開始しています。GitHub Copilot for Businessはコード記述の提案を行い、エンジニアの作業効率向上に貢献するAIです。
テスト導入時に、エンジニア1人あたりの1日のコーディング時間が約1〜2時間削減される結果が出ていたことから、正式導入に至ったとのことです。
参考:LINEヤフーの全エンジニア約7,000名を対象にAIペアプログラマー「GitHub Copilot for Business」の導入を開始|LINEヤフー
大林組 :建築設計で活用
建設事業を手掛ける大林組では、ファザードデザインを提案するAIを米国シリコンバレーのSRI International(SRI)と共同で開発しました。
従来はアイデアに基づいたスケッチやCADを使用したデザイン案の作成をすべて手作業で行っていたため、時間や手間がかかっていました。AIを活用することで、複数のファザードデザインを瞬時に作成でき、効率よくデザイン検討に移れるようになったそうです。
参考:建築設計の初期段階の作業を効率化する「AiCorb®」を開発|大林組
生成AIをビジネスで活用する際の注意点
生成AIをビジネスで活用する際には、次の3点に注意が必要です。
- 情報漏洩のリスク対策を行う
- 出力された情報が正確か確かめる
- 著作権や商標権を侵害していないか確認する
情報漏洩のリスク対策を行う
生成AIを業務で活用する際に注意したいのは、情報漏洩のリスクです。
生成AIは、クラウドベースで動作する場合も多く、入力されたデータが適切に保護されないと、不正アクセスや外部からの情報漏洩につながる危険性があります。
情報漏洩を防ぐためには、利用する際のルール作りが重要です。そもそも機密情報や個人情報は入力しないことが推奨されますが、どうしても機密情報や個人情報をAIに入力する必要があるという場合は、暗号化やアクセス制限を行い、内部のセキュリティを強化しましょう。
出力された情報が正確か確かめる
生成AIは便利なツールですが、出力された情報の正確性についても注意が必要です。
AIは学習したデータをもとに新しいコンテンツを生成するため、誤った情報や不正確な内容を生成することがあります。特に、特定の業界における専門的な知識や最新の情報が反映されていない場合、生成された内容が事実と異なる可能性があります。
そのため、生成AIが出力した情報は、必ず人間がチェックすることが重要です。AIが生成した内容をそのまま使用するのではなく、専門知識を持った担当者が検証し、誤りがないかを確認した上で、最終的に公開や使用を決定しましょう。
著作権や商標権を侵害していないか確認する
生成AIが作成するコンテンツは、完全にオリジナルであるとは限りません。AIは学習データをもとにコンテンツを生成しますが、その学習データには既存の著作物や商標が含まれていることがあり、生成されたコンテンツが似てしまう場合があります。
このようなリスクを避けるためには、生成されたコンテンツが既存の著作物に類似していないか、事前に法的な確認を行うことが重要です。たとえば、著作権管理団体や商標登録データベースで検索をかけたり、法律の専門家に相談したりすることが推奨されます。
まとめ
生成AIは、学習したデータをもとに新たなコンテンツやアイデアを生成する技術のことです。ビジネスでは、日常の文書作成や議事録作成、カスタマーサポートなどで幅広く活用できます。生成AIを活用すると多くの業務を効率化できるため、生産性の向上や従業員の負担軽減など多くのメリットがあります。生成AIを取り入れられそうな業務から、ぜひ導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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