農業や林業、水産業といった第一次産業では、高齢化や人手不足、生産量の減少といったさまざまな課題を抱えています。特に水産業・漁業では後継者不足の問題に悩まされており、その課題解決の手段として「水産業DX(デジタルトランスフォーメーション)」への注目が集まっています。
この記事では、水産業界の現状やDXの取り組み事例、スマート水産業の概要をわかりやすく解説し、水産業DXの導入に向けたポイントをご紹介します。
水産業におけるDXとは?
水産業DXとは、漁業や養殖業といった水産業の現場で、AIやIoT、ICT技術などのデジタル技術を活用し、効率化や持続可能な生産を目指す取り組みです。水産業におけるDXの導入により、属人化した技術の継承や漁獲量の増加、業務効率の向上が期待されています。
DXの定義
DX(デジタルトランスフォーメーション)とは、デジタル技術を活用して企業のビジネスモデルや業務プロセスを変革し、価値を向上させることです。単なるデジタル化に留まらず、企業全体での改革を推進する概念として、さまざまな業界で取り組みが進められています。
水産業DXの目的
水産業DXの目的は、主に以下のような課題に対処し、持続可能な水産業を実現することです。
- 効率化や自動化による生産性の向上
- 若手従事者の育成と技術継承のサポート
- 漁獲量や品質の最適化による収益向上
- 資源保護を意識した持続可能な漁業の実現
なぜDXが必要?水産業界の現状
なぜ今、DXが求められているのでしょうか。その背景にある水産業界の現状についてみていきましょう。
漁業技術の属人化
水産業の多くは、漁師が持つ経験や勘に頼った業務が行われてきました。つまり、技術が属人化しているのが現状なのです。この属人化により、技術の継承が難しくなり、効率的な生産を実現するうえでの大きな障壁となっています。
新規就業者数の減少(後継者不在)
少子高齢化の影響は水産業界にも及んでおり、従事者が減少しています。特に次の世代として技術を受け継いでいく若手従業者の数が不足しており、現役の漁師の中には後継者不在で事業をたたんでしまう人も少なくありません。
新規就業者が少ないと技術の伝承が難しくなり、産業の将来が危ぶまれます。後継者不足に対処するためにも、DXを活用した技術の蓄積や効率化が求められているのです。
生産量の減少
気候変動や乱獲による資源減少により、水産物の生産量は減少傾向にあります。消費者の魚介類需要が高まる中で、安定した供給を実現するためにも、データ分析を駆使した効率的な漁業が必要とされています。
水産庁が推進するスマート水産業(スマート漁業)とは?
「スマート水産業(スマート漁業)」は、漁業や養殖業での効率化や生産性向上を目指し、ICT技術やIoT、AIなどの最新技術を導入して生産性向上を目指す取り組みです。スマート水産業の一環として、IoTセンサーを用いた漁場の監視やAIを活用した漁獲物の品質管理、船の自動操縦技術などが導入され始めています。
水産庁もこの分野の推進に力を入れており、持続可能な漁業の実現や、次世代に水産業を引き継ぐためのサポートを行っています。そのため、今後はさらに水産業界におけるDXが浸透していくと考えられます。
水産業DXの取り組み事例
実際に水産業DXに取り組んでいる企業は、どのような施策を行っているのでしょうか?ここからは、水産業DXの具体的な取り組み事例について解説します。
AIやロボットによる業務自動化
日常的に行うルーティン業務や集計業務は、AIやロボットを活用すると自動化が可能になります。これにより従業員の作業負担が減少し、効率的な業務運営が実現します。
また、AIはさまざまなデータ収集と分析にも活用できます。データの数値から養殖場の魚の状況を把握して餌槍のタイミングを提示したり、その日の最適な漁場を絞り込んだりといったことも、AIを活用すれば自動で行うことができ、業務効率化とコスト削減にもつながるでしょう。
ICTの活用で技術継承
これまで漁師の仕事は経験や勘に頼る面が大きいのが現状でした。そのため、技術継承に手間と時間がかかり、若手従業者の育成がなかなか進められないといった課題を抱えていました。
しかし、ICT技術を使い、ベテラン漁師の経験や知識をデータとして蓄積すれば、若手の育成に役立てることができます。属人化していた技術や情報をAIでも分析できるような形にデータ化できれば、効率的な技術継承が可能になるでしょう。
IoTの活用で漁獲物の質向上と漁獲量確保
IoT(Internet of Things:モノのインターネット)を活用してデータ収集を行い、それをAIに分析させると、漁獲物の質向上や漁獲量確保に役立てることができます。
例えばIoT化されたブイでは、海水温や潮流、塩分などのデータ収集が可能です。AIによってそのデータの傾向を分析していくと、より最適な漁場エリアの予測や、漁獲量の予測ができるようになります。結果的に、漁獲物の質向上や漁獲量確保につながり、水産業の生産性向上が見込めます。
IoTの活用で養殖の効率化
IoTは養殖の現場でも活躍する技術です。IoTセンサーを用いて、養殖の生け簀の水質や気温などのデータをモニタリングし、魚の成長状況も記録してAIによる分析を行うと、最適な給餌のタイミングや出荷のタイミングを予測することができます。
それだけではなく、給餌量の記録・管理もシステム上で行うようにすれば、手入力の手間を減らすことにもつながるでしょう。
水産業DX導入を妨げる課題
水産業DXは、上手く導入すればメリットの多い施策ではありますが、導入を妨げる課題もいくつか存在します。
導入コストの高さ
水産業DXにおける大きな課題として挙げられるのが、導入コスト(初期投資費用)の高さです。IoTツールやドローン、AI分析システムなどの技術を導入するには、多額の費用が必要になります。特に中小規模の水産業者にとっては、DX導入にかかるコストが利便性を上回ってしまい、導入に踏み切れないケースも少なくありません。
ものによっては、導入後も定期的なアップデートを行わなければならなかったり、すぐに新しい技術が開発されて陳腐化したりと、さらなる投資が必要になることもあります。DX推進が思うように進まない背景には、コスト面での大きな課題が立ちはだかっているのだと考えられます。
IT技術に関する知識不足
DXを進めていくためには、IT技術やDXに関する知識を持ったITリテラシーの高い人材が欠かせません。しかし、水産業の現場には高齢者が多いこともあってIT人材が少なく、新しい技術やシステムへの対応が難しいと感じられることも多いのです。
この課題を解決するためには、DXの専門家やIT企業と協業したり、IT研修プログラムに参加して技術に精通した人材を育成したりといった取り組みが必要です。
まとめ
水産業界におけるDXは、属人化した技術の継承や人手不足の解消、持続可能な漁業の実現など、さまざまな課題の解決を目指しています。AIやIoTなどの先端技術を取り入れた「スマート水産業」の推進により、漁業の効率化や生産性向上が期待されており、水産庁をはじめとした支援も進められています。
水産業DXには課題も多いものの、段階的な導入と教育体制の整備を通じて、次世代に繋がる持続可能な水産業を構築していくことが重要です。
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