農業分野でもデジタル技術の活用が進む中、「農業DX」が注目を集めています。農業DXとは、データ活用やAI、IoTなどの先端技術を活かして生産性を高め、持続可能な農業を目指す動きのことです。
本記事では、農業DXの概要や推進の背景、導入によるメリットについて解説します。具体的な取組事例もご紹介していますので、農業DXに興味のある方はぜひ参考にしてください。
農業DXとは
農業DXは、農業分野にデジタル技術を導入して業務全体を変革し、効率性や生産性の向上を目指す取り組みです。
農林水産省も農業DXを推進しており、有識者からなる「農業DX構想の改訂に向けた有識者検討会」において令和3年3月に「農業DX構想 」、令和6年2月に「農業DX構想2.0」が取りまとめられました。
農業DX構想、農業DX構想2.0では、農業DXの意義を次のように定義しています。
ロボット、AI、IoT(※5)等の技術の現場実装を強力に進めることによりデータを活用した生産効率の高い営農を実行しつつ、消費者の需要をデータで捉え、消費者が価値を実感できるような形で農産物や食品を提供していく農業(FaaS(Farming as a Service))への変革を実現」し、「デジタル技術を活用し、一見矛盾する・両立しない課題を乗り越えて発展していく」
(※5)IoT モノのインターネット(Internet of Things)。インターネット上で、他の機器やシステムと接続し、データを交換するために、センサー等の機器やソフトウェア、技術等を具備している機器のネットワーク。 |
引用:農業DX構想2.0|農業DX構想の改訂に向けた有識者検討会
農業は通常、効率化と消費者ニーズへの対応を両立することが難しいとされていますが、農業DXを進めることで同時に達成し、さらに農業を発展させることを目指しています。
農業DXを推進する背景
日本の農業は高齢化 や後継者不足 といった深刻な問題に直面しています。
農林水産省が公表している農業労働力に関する統計によると、基幹的農業従事者(主に市営農業に従事している者)の平均年齢は平成27年時点で67.1歳でしたが、令和5年では68.7歳と高齢化が進んでいます。
また、農林水産省が実施した令和5年新規就農者調査の結果によると、令和5年の新規就農者は43,460人で、前年と比較して5.2%減。平成27年度と比べると、新規就農者は約22,000人も減少しています。後継者となる若い人材がなかなか増えていない現状です。
このような課題があることから、農業DXを早急に進めることが求められているのです。
農業DXの現状
現在、日本の農業DXは徐々に進展していますが、地域や農家の規模によって導入の進捗にばらつきがあります。
政府の支援や民間企業の取り組みが進められており、多くの事例が紹介されているものの、依然としてデジタル技術への理解不足や資金調達の難しさが課題として残っているのが現状です。
農業DXとスマート農業の違い
農業DXとスマート農業は関連していますが、異なる概念です。
スマート農業は主にIoT技術を活用し、農業の自動化や効率化に焦点を当てています。一方、農業DXはデジタル技術全般を活用し、ビジネスモデルやプロセスそのものの変革を目指す取り組みです。
つまり、農業DXの方がスマート農業よりも大きな概念といえます。
農業DX推進による3つのメリット
農業DXの導入で得られる主なメリットは次のとおりです。
- 生産性を上げられる
- コストを削減できる
- 環境への負荷を軽減できる
生産性を上げられる
農業DXを推進するメリットとして、作業効率を向上できる点が挙げられます。
たとえば、自動収穫ロボットは最適なタイミングを検知して自動的に収穫できるため、人手に左右されず収穫量を維持できます。また、ドローンを使うと空から作物の成長状態や病害虫の被害を確認できるため、広い畑を目視で確認する手間を省くことも可能です。
コストを削減できる
デジタル技術を活用することで、無駄な資源の使用を抑えられ、コストの削減につながります。
例として、使用する水や肥料の量をデータに基づいて最適化することで、必要最低限の量で済むようになります。また、収穫量予測や市場データの分析によって生産量を調整でき、売れ残りによる廃棄コストを削減可能です。
環境への負荷を軽減できる
農業DXは、持続可能な農業を実現するためにも重要な取り組みです。農薬は経験をもとに使用量を決めることも多く、必要以上に撒かれる場合もあり、環境への負荷が懸念されていました。
農業DXを進めることでデータに基づいた適切な量が把握でき、環境に配慮した農薬の使用を実現できます。
農業DXの取組事例3選
農業DXは各地域で取り組みが進んでおり、成功事例も多数あります。ここでは、農林水産省が公表している農業DXの事例を3つご紹介します。
- 宮城県石巻市:AIを活用した病害虫対策
- 静岡県:デジタルツールを活用した新しい青果流通の仕組み
- 鹿児島県枕崎市:データを活用した販売管理
宮城県石巻市 :AIを活用した病害虫対策
宮城県石巻市で農園を営む高橋さんは、水稲やネギの栽培をしています。基本的に一人で生産しており、生産性の向上を特に重要視しているそうです。
対象の作物にネギが追加されたことをきっかけに、AI病害虫雑草診断アプリ「レイミー」を導入しました。異変のある作物を撮影すると、その場で瞬時に病害虫や生育障害の候補を出してくれるため、判断の参考にしているとのこと。「判断に自信を持ちづらい新規就農者や若い方に有用なツールだと思う」と話されています。
(参考:農業DXの事例紹介(13)AI病害虫雑草診断アプリを活用して生産性を向上|農林水産省)
静岡県 :デジタルツールを活用した新しい青果流通の仕組み
静岡県のやさいバス株式会社では、デジタルを活用した地域で野菜を効率的に流通させる仕組みの「やさいバス」を提供しています。小売業者が事前にネット注文した品を農家が指定時間までにバス停へ持ち込み、市場内で野菜を受け取るという流れです。
野菜農家の桑高さんは「やさいバスを通して、これまで関わりのなかった方々とのつながりができた。良い野菜を適切な価格で早く消費者のもとへ届けられているため、商品本来の価値を提供できている」と話されています。
(参考:農業DXの事例紹介(10)農家と顧客をデジタルでつなぐ新しい流通|農林水産省)
鹿児島県枕崎市 :データを活用した販売管理
鹿児島県枕崎市で花き農業を営む桑原さんは、年間を通じて輪菊の生産をしています。
県が主催する研修で経営管理サービスを提供する会社の講演を聞き、作業のデータを蓄積し、経営に活用することはコストをかけてでもやるべきだと考え、「スター農家クラウド」を導入しました。その結果、毎月の売上が見える化したことで、設備や資材の投資判断が適切になったとのこと。
「利益管理ができるようになり、人や設備投資の計画が立てやすくなったので、将来の夢を考える時間もできました。」と話されています。
(参考:農業DXの事例紹介(8)データを活用した農業経営の改善|農林水産省)
農業DXを進めるうえで利用できる補助金
農業DXを推進するために、さまざまな補助金が用意されています。
「ものづくり・商業・サービス生産性向上促進補助金(ものづくり補助金)」は農業機械の購入や運搬費用などに利用できます。また、ITツールの導入では「IT導入補助金」も利用可能です。
補助金の活用には一定の条件があるため、最新情報を確認のうえ、利用をご検討ください。
まとめ
農業DXは、現代の農業が直面している課題を解決するための有効な手段です。デジタル技術を導入することで、生産性向上やコスト削減、環境への負荷軽減が期待できます。成功事例も多く生まれており、今後もその普及が進むことで、持続可能な農業の実現が期待できるでしょう。
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